酸素を含むエーテル環やラクトン環は天然物や医薬品などに見られる重要な部分構造です。特に中員環ラクトンは、抗生物質に多く見られる構造です。この構造の合成法として一般的に用いられるのが、山口法や椎名法と呼ばれる縮合剤によってカルボン酸部分を活性化させるマクロラクトン化法です。これらは、天然物合成において多用される信頼性の高い方法として知られています。しかしながら、反応前駆体は、比較的極性の高いヒドロキシカルボン酸を経由するため、取り扱いが困難な場合があります。そのため、このような高極性官能基を経ないマクロラクトン環合成法の開発が望まれています。
Shigehisaらは、アルケンと保護あるいは無保護のアルコールあるいはカルボン酸をコバルトサレン錯体を用いてヒドロアルコキシル化することでエーテル環、ラクトン環の合成を行う方法を開発しました。この反応では、高極性官能基を経ることなく、エーテル環あるいはラクトン環を得ることが出来ます。現段階では、5,6員環ラクトンは高収率で合成出来ていますが、残念ながら、中員環である7~9員環では収率が大幅に低下してしまうようです。今後の改良により、天然物合成に応用可能な手法となることが期待されます。
“Catalytic Synthesis of Saturated Oxygen Heterocycles by Hydrofunctionalization of Unactivated Olefins: Unprotected and Protected Strategies”
H. Shigehisa,* M. Hayashi, H. Ohkawa, T. Suzuki, H. Okayasu, M. Mukai, A. Yamazaki, R. Kawai, H. Kikuchi, Y. Satoh, A. Fukuyama, K. Hiroya
J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 10597–10604.